相続・遺言に関する手続の総合案内(合同会社つなぐ(FP)×司法書士法人黒川事務所×行政書士黒川事務所の運営サイト)
相続放棄は、故人の権利や義務の一切を相続しないことにする手続きです。もちろん故人が住んでいた家なども、相続放棄をすると引き継がなくて済むようになります。
ただし、相続放棄をしても、故人が住んでいた家(空き家)の管理義務(保存義務)が残るケースがあります。
本記事では、相続放棄したときの空き家の管理義務や、空き家管理をしないリスク、空き家管理の手間を削減するポイントを解説します。
民法第九百四十条
相続の放棄をした者は、その放棄の時に相続財産に属する財産を現に占有しているときは、相続人又は第九百五十二条第一項の相続財産の清算人に対して当該財産を引き渡すまでの間、自己の財産におけるのと同一の注意をもって、その財産を保存しなければならない。
民法第940条のポイントは以下の3点です。
相続放棄の時点で空き家を占有している場合は管理義務が生じる
管理義務は空き家を他の相続人か清算人に引き渡すまで継続する
空き家管理は自分の財産と同じくらい注意深く行う必要がある
2021年に民法が改正される前は、空き家の管理義務を負う人や、管理義務が生じる期間があいまいでした。改正民法では、故人の家を「現に占有している」人が管理義務を負います。相続放棄をした時点で故人の家に居住していない場合、管理義務は発生しません。
また、空き家の管理義務は、他の相続人か清算人(相続財産清算人)に引き渡すまで継続します。空き家は自分の家と同様に、近隣住民の交通の妨げになったり、隣の家に損害を与えたりしないよう、適切に管理する必要があります。
引き渡しが完了したら、それ以降空き家を管理する必要はありません。改正民法の内容をふまえて、相続放棄後に空き家を管理しなければならないケースを知っておきましょう。
2015年に「空き家等対策の推進に関する特別措置法(空き家法)」が施行され、倒壊の危険性が高い「特定空家等」への監視が強化されました。
特定空家等に該当するのは以下の空き家です。
そのまま放置すれば倒壊等著しく保安上危険となるおそれのある状態
そのまま放置すれば著しく衛生上有害となるおそれのある状態
適切な管理が行われていないことにより著しく景観を損なっている状態
その他周辺の生活環境の保全を図るために放置することが不適切である状態
特定空家等に該当する空き家の管理を行わないと、市区町村による行政指導を受ける可能性があります。
行政指導の例 | 内容 |
情報提供・助言等 | 空家等の適切な管理に必要な情報提供、助言をします。 |
助言・指導 | 空家等の適切な管理に必要な措置を取るよう助言または指導をします。 |
勧告 | 指導を受けて改善されない場合、固定資産税の住宅用地の特例から除外となります。 |
命令 | 命令に違反した場合、50万円以下の過料に処されることがあります。 |
行政代執行 | 命令が履行されない場合、市が代執行することがあります。また、その際の費用は所有者から撤収します。 |
空き家を勝手に処分すると相続放棄が認められなくなる可能性がある
相続財産清算人を選任すれば空き家管理を委託できる
相続放棄がまだの場合は相続土地国庫帰属制度の利用も検討する
相続放棄は、「相続人が被相続人の権利や義務を一切受け継がない」ことを選ぶ手続きです。相続放棄を行ったら、故人の財産を処分したり、利用したりすることはできません。
故人の空き家や家財道具を勝手に処分すると。相続放棄が認められなくなる可能性があります。空き家を管理する場合は、簡単なゴミ出しや片付け程度にとどめましょう。
もし空き家管理が大変な場合は、財産管理を委ねる相続財産清算人の選任も検討してください。
相続財産清算人は,被相続人(亡くなった方)の債権者等に対して被相続人の債務を支払うなどして清算を行い,清算後残った財産を国庫に帰属させることになります。
相続財産清算人を選任すれば、空き家の管理を委託し、処分や解体などを代わりに行ってくれます。相続財産清算人を選任する場合は、故人の最後の住所地がある家庭裁判所で申し立てを行いましょう。
相続放棄の手続きが完了する前であれば、相続土地国庫帰属制度が利用できます。
相続土地国庫帰属制度は、「相続した土地の所有権を国庫に帰属させることができる制度」です。
故人の家が不要な場合は、相続放棄をする前に相続土地国庫帰属制度を利用する選択肢もあります。