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最終更新日:2025年7月1日
「私に万一があったときに、この子をパートナーに託したい」
LGBT(同性)カップルの中でも、レズビアンカップルの場合は連れ子等で子どもがいるケースも稀ではなく、万一の親亡き後の子供の行く末は非常に重要な問題になります。
この点、パートナーシップ制度に登録(宣誓)しても、親権について一切の効力を及ぼすことはできません。
そのため、同性カップルのお二人のうち子どもの実親である方が万一亡くなった場合、親権者が不存在となるので、子どもの財産管理など様々な面で不都合が懸念されます。
同性カップルやその子どもが法的に家族になる手段としては養子縁組が有名ですが、子どもとパートナーとが養子縁組をすると、親権者がパートナーのみになってしまう(実親は親権を失う)という大きな問題点があります。
以上の問題は、遺言書で「未成年後見人の指定」をしておくことで解決できます。
今回は、未成年後見人という制度の概要や、遺言書による指定の仕方、指定する際の注意点やポイントを中心に詳しく解説していきます。
未成年後見人とは、事故による死亡等で親権者が不存在となった場合に、親権者に代わって未成年者の教育監護等を行う人のことであり、「親代わり」とも言える存在です。
未成年後見人は、子どもの教育監護や財産管理も含め、親権者と同等の権利義務を有します。
例えば、教育監護の面では、他人に干渉されずに子育てをすることが可能です。子どもを不当に拘束する者に対しては子どもの引渡しを請求することも可能です。
未成年後見人は遺言書又は家庭裁判所の審判によって選任されます。
ご自身で未成年後見人を指定する場合は必ず遺言書によって行う必要があり、契約書等で定めても無効です。
家庭裁判所の審判による方法の場合、残された人に裁判手続の負担がかかる他、誰が未成年後見人に指定されるかは裁判所の判断に委ねられ不透明になりますので、パートナーが適任と思われる場合は遺言書で指定しておきましょう。
遺言書の記載例 |
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遺言者は、未成年者である長男甲川蒼空(令和15年1月1日生)の未成年後見人として、次の者を指定する。 住 所 新宿区新宿2-1-1 氏 名 甲原孝吉 職 業 会社員 生年月日 平成25年1月1日 |
遺言書で未成年後見人を指定しておくと、指定された人は遺言者の死亡と同時に未成年後見人に就任します。つまり、その意向に反しても就任を拒絶することはできません。
未成年後見人は、前記のとおり教育監護と財産管理の広い権限を有しますが、権限と責任は表裏一体ですので、重い注意義務を背負うことになります(後述しますが、財産管理の面では親権者よりも重い責任が課せられています)。
そしてその責任は、未成年者が成年(18歳)に達するまで続きます。
就任拒絶できない代替策として辞任するという方法はありますが、辞任も容易ではありません。未成年後見人の辞任には病気や高齢などの「正当な理由」が必要であり、その上で家庭裁判所の許可が必要です。
未成年後見人は前記のように広い権限を有するので、その不正防止にも配慮が必要です。実際に子どもの財産が未成年後見人に横領された例が幾つも明らかになっています。
未成年後見人が家庭裁判所で選任された場合には、未成年後見人は子どもの財産状況等を裁判所に年1回報告する必要があるなど、家庭裁判所の監督下に置かれます。
しかし、未成年後見人が遺言書で指定された場合には家庭裁判所への報告義務はなく、裁判所の監督が及びません。
そのため、遺言書で未成年後見人を指定する場合は、併せて未成年後見「監督」人も指定することを検討しましょう。
未成年後見「監督」人には、子どもの教育監護や財産管理の全てについて、いつでも未成年後見人に報告を求め、また、自ら調査する権限などが与えられています。
未成年後見「監督」人は、このような権限を背景にして、未成年後見人の不正行為や職務怠慢を防止するとともに、進学や就職など子どもの大事な節目で未成年後見人の良きアドバイザーとなる役割が期待されています。
そのため、パートナーを未成年後見人に指定する際に、もし子どもの祖父母の中でパートナーによる子育てに理解がある(もしくは理解がありそうな)方がいる場合には、その祖父母とも話し合って内諾をもらい、未成年後見「監督」人に指定させてもらうことなども検討しましょう。
遺言書の記載例 |
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遺言者は、長男甲川蒼空(令和15年1月1日生)の未成年後見監督人として、次の者を指定する。 住 所 豊島区巣鴨3-1-1 氏 名 甲川松子 職 業 無職 生年月日 平成5年1月1日 |
パートナーを未成年後見人に指定しておいても、死後に子どもの他方の実親(レズビアンの連れ子のケースであれば、子どもの父親)がこれを好ましくないと考えると、子どもの取り戻しに動く可能性があります。
未成年後見人が就任した後であっても、実親は自己に親権者を変更すべき旨を裁判所に申し立てることが可能です。
この申立てが認められるかは、パートナーと実親のどちらが子どもの監護教育者としてより適任かという比較で決せられます。
そのため、このような事態に至るおそれがある場合は、遺言書の付言事項の中で、パートナーが適任である理由も記載しておきましょう。
-この章の目次-
6-2.未成年後見「監督」人の権利義務を詳しく教えてください
6-3.未成年後見人にパートナーを指定できないケースはありますか?
未成年後見人の権限は、親権とほぼ同一であり、大きく身上監護と財産管理の2つに分けられます。
1つ目の身上監護の権限は、以下のような権限を含むもので、「子育て」の権限とも言えるものです。これらの権限行使については、親権者と同一の注意義務が未成年後見人に課せられています。
権限種別 | 権限行使の具体的場面の例 |
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監護教育 | 進学させるか否か、どの学校に進学させるかの決定 |
居所指定 | 就職や進学の際に一人暮らしをさせるか、どこのアパートに住ませるかの決定 |
職業許可 | 学業の傍らアルバイトを許すかの決定 |
医療同意 | 小学生以下の子どもの手術への同意 |
2つ目の財産管理の権限は、以下のような権限を含むもので、包括的なものになります。これらの権限行使については、親権者よりも重い注意義務(善良な管理者の注意義務)が未成年後見人に課せられています。
権限の内容 |
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子どもの収支の管理 |
子どもの預貯金等の財産管理 |
子ども名義の契約の締結管理 |
上記のうち「子ども名義の契約の締結管理」の権限というのは、例えば子どもの運転免許取得の際に締結する教習所との契約等の場面で、下記のような権限を行使することが可能です。
権限種別 | 権限行使の具体的態様の例 |
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代理権 | 法定代理人として子どもに代わって契約書に署名すること |
同意権 | 子どもが署名した契約書に同意書を付与すること |
取消権 | 同意もなく子供が勝手にした契約を取り消すこと |
未成年後見「監督」人は、監督という職務遂行のため、子どもの教育監護や財産管理の全てについて、いつでも未成年後見人に報告を求め、また、自ら調査することができます。
また、未成年後見人が下記の行為をするときは、未成年後見「監督」人の同意を得ることが義務付けられています。
監督人の同意必要事項 |
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親権者が定めた教育方法の変更 |
親権者が定めた子どもの居所の変更 |
職業の許可・取消・制限 |
後見人の欠格事由 |
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未成年者 |
家庭裁判所で免ぜられた法定代理人、保佐人又は補助人 |
破産者 |
被後見人に対して訴訟をし、又はした者並びにその配偶者及び直系血族 |
行方の知れない者 |
未成年後見「監督」人についても国家資格や子どもの親族であることは不要ですが、欠格事由は未成年後見人よりも多く定められており、具体的には下記の表のとおりになります。
このように、未成年後見人の近しい親族は未成年後見「監督」人にはなれませんので、「パートナーを未成年後見人にしつつ未成年後見「監督」人をパートナーの母親に指定する」ということはできません。
後見監督人の欠格事由 |
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未成年後見人の配偶者 |
未成年後見人の直系血族(父母など) |
未成年後見人の兄弟姉妹 |
未成年者など、未成年後見人と同一の欠格事由 |
未成年後見人は、子どもの戸籍に下記のように記録されます(なお、未成年後見人の戸籍には何も記録されません)。
見出し | 記録例 |
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未成年後見人就職日 | 令和25年9月18日 |
未成年者の後見開始事由 | 親権を行う者がないため |
未成年後見人 | 甲原孝吉 |
未成年後見人の戸籍 | 千葉市中央区千葉港5番地 甲原忠太郎 |
届出日 | 令和25年9月23日 |
送付を受けた日 | 令和25年9月25日 |
受理者 | 千葉市中央区長 |
未成年後見「監督」人は、子どもの戸籍に下記のように記録されます(なお、未成年後見「監督」人の戸籍には何も記録されません)。
見出し | 記録例 |
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未成年後見監督人就職日 | 令和16年1月8日 |
未成年後見監督人 | 甲川松子 |
未成年後見監督人の戸籍 | 東京都千代田区永田町二丁目5番地 甲川芳吉 |
届出日 | 令和16年1月11日 |
法律上は遺言書の種類に制限はないため、自筆証書遺言で指定することも可能です。
しかし、その効力の重要性や、未成年後見人が速やかに権限行使できるようにするためには、公正証書遺言が推奨されます。
自筆証書遺言の場合、市役所への未成年後見人就任の届出の前に「検認」という手続を経なければならないため、後見人が実際に職務に当たれるようになるまでに1か月以上の期間を要してしまいます(遺言書を法務局に保管している場合は検認不要です)。
公正証書遺言と自筆証書遺言の違いや検認については、下記の記事で詳しく解説しているので、よければご覧ください。
未成年後見人の制度は、平成23年の東日本大震災において未成年者を残したまま親権者が亡くなった事例が多く発生したことからクローズアップされました。近い将来にも大地震の発生が確実視されています。
そのような万一のときのために、この子を託したいと強く思える方がいる場合には、遺言書での未成年後見人の指定は有用な選択肢となります。
その法的な手続としては、遺言書に端的に記載しておくだけですので、手間はそれほどかかりません。
しかし、その前段階として、例えばパートナーを指定する場合には、未成年後見についてパートナーとよく話し合い、子育ての責任への認識を共有しておくことが非常に重要です。
未成年後見「監督」人を付けるべきかもパートナーと十分話し合った上で、付けるときは監督人候補者ともよく話し合う必要があるでしょう。
未成年後見人を指定するときは、遺言書にその旨を書くだけでなく、万一のときに子どもやパートナーに遺産をどのように分配して承継させるかという財産面についても書いておくことをお勧めします。
愛する子どもの行く末のためにこのような検討の手間暇をかけるのは、とても有意義なことではないかと思います。
昭和57年 東京都文京区 生まれ
平成16年 中央大学 法学部法律学科 卒業
平成22年 司法書士試験 合格
平成23年 簡易裁判所の訴訟代理権試験 合格
一般企業の法務部、大手の司法書士法人等を経て、現職。
裁判所への書類や企業間契約書など、法律文書の作成を専門として15年程の実務経験があります。定型文中心の行政申請業務が主流の司法書士業界では珍しい経歴かもしれません。
現在は特に、同性カップルの法的課題に対する支援に注力しており、遺言書や医療同意委任契約など、法的効力や実務上の実効性を重視したサポートを行っています。
「一人の人生の大事な局面に関わる責任」を重く受け止め、依頼者の思いに応える成果を提供できるよう、今後も研鑽を続けて参ります。
・至誠一貫 ・第一義
・茶道(裏千家/許状:行之行台子)