相続・遺言に関する手続の総合案内(合同会社つなぐ(FP)×司法書士法人黒川事務所×行政書士黒川事務所の運営サイト)
「子供のいるレズビアンのカップルが養子縁組をしたという話を聞いたけど、パートナーシップと何が違うんだろう」
ゲイやレズビアンなど同性カップルの方にとって、養子縁組は結婚に近い法的効力を生じさせる有力な選択肢といえます。
他方で、最近はパートナーシップ制度も注目を集めていますし、当事務所では遺言書などの3つの法律文書セットで同性婚に近付けるサービスも提供しています。
今回は、養子縁組について、パートナーシップ制度、遺言書と比較する形で、その特徴や効力を詳しく解説していきたいと思います。
他の制度と比較検討することで、養子縁組のメリット・デメリットも浮き彫りになります。
同性婚が認められない現状において、同性カップルの方がお二人の幸せのために最適な選択肢を選ぶ一助となれば幸いです。
【スキップ】
1-1.養子縁組の意義
1-2.パートナーシップ制度の意義
1-3.遺言書の意義
3-1.養子縁組と相続
3-1-1.養親子は相続人になれる
3-1-2.養親子は相続税も減税
3-1-3.遺産分割協議のリスク
3-2.遺言書と相続(遺贈)
3-3.パートナーシップと相続
4-1.養子縁組は苗字も戸籍も同じになる
4-2.パートナーシップで住民票続柄変更が可能な自治体もある
4-3.養子縁組なら扶養認定が可能になる
4-5.養子縁組は無効のリスクがある
4-8.遺言書はカミングアウトにならない
5.まとめ
相続制度において、養子は実子(血の繋がった子供)と全く同様に取り扱われます。そのため、養子縁組をすれば、ほとんどのケースでカップルが相互に遺産の法定相続人になることができます。
養子となったパートナーが亡くなった場合に、そのパートナーに子供(養親から見れば孫)がいるときだけは、養親は相続人になることができません。
このケースでは、養子縁組と併せて遺言書の活用も積極的に検討しましょう。
遺産の総額が3000万円以上の場合は、相続税が課される可能性があります。
養子縁組であれば、相続税について親子間に適用される多くの減税措置を受けることができます。
特に効果が大きいのが、「小規模宅地の特例」です。同性カップルがその持ち家(マンションを含みます)で同居している場合、多くのケースでこの特例を受けることができ、その宅地の相続税の80%も節税することができます。
相続財産の大部分は土地が占めることが多いので、減税の効果は絶大です。
このほか、親子と配偶者以外の相続人等に適用される「相続税額の2割加算」も免れることができるので、不動産を持っていなくても相続税全体が2割程度抑えられます。
上記のように相続上のメリットも大きい養子縁組ですが、その反面で同性カップルにおけるリスクとして顕著なのが、他に法定相続人がいる場合です。
比較的多いケースとしては、養子が養親より先に亡くなった場合に、その養子の実親(血の繋がったお父様かお母様)がご健在のケースです。
養子縁組をしても、実親との法的な親子関係は継続します。そのため、養親と実親の両方が相続人となってしまいます。
このような共同相続の場合、「遺産分割協議」が必要になりますが、これが厄介です。
遺産分割協議とは、相続財産のうち、誰がどの財産を具体的に相続するかを決める話し合いです。例えば、相続人aが不動産を、相続人bが金融資産を、という具合で決めていきます。
この協議は相続人全員で行う必要がありますので、養親となったパートナーは実親と、全部の遺産を相続できないという面で対立する中で話し合いをしなければならなくなってしまいます。
本来は遺産全部を相続できたはずのご両親との話合いですから、ご両親とパートナーとの面識が乏しい場合には、協議が紛糾するのは想像に難しくないでしょう。
遺言書は、意義の箇所で解説したように、本人の意思で誰にでも遺産を承継させることが可能です。
遺言書の書き方によっては、前述のように遺産分割協議を不要とすることもできます。
ただし、遺言書にも限界はあり、一部の親族は遺留分という制度で守られています。
遺留分とは、分かりやすく言うと「一部の法定相続人に最低限認められた、遺産の一部請求権」のことであり、遺言書でも奪うことはできません。
例えば、遺言書で「パートナーに全財産を遺贈する」と書いておいても、一部の親族はパートナーに遺留分の請求をすることで、最大で遺産の評価総額の半分に相当する金銭を取り立てることができてしまいます。
遺留分の詳細については、下記の記事で詳しく解説しているので、よければ参考にされてください。
養子縁組をすると、カップルのうち先に生まれた方が養親になります。
年長者を養子にすることは民法で禁止されているため、どちらが親になるかを選ぶことはできません。
その結果、年少のパートナーは、養親の苗字に変更になり、養親の戸籍に子供として入ることになります。
養子縁組は結婚と類似点も多いですが、結婚はどちらの苗字を名乗るか→どちらの戸籍に入るかを自由に選ぶことができるので、この面では異なります。
とはいえ、入籍して同じ苗字を名乗れるのは、結婚に近い幸福感の源泉になりうるでしょう。
人によっては「今は同性パートナーと養子縁組をしておいて、もし将来的に同性婚を認める法改正がされたら、離縁(養子縁組の解消)をして結婚しよう」と考えている方もおられるかもしれませんが、その考え方は危険です。
なぜなら、離縁をした後であっても、過去に養親と養子の関係にあった者同士での結婚は、民法で禁止されているためです。
この民法の禁止規定は、親子秩序の維持が目的とされています。結婚観については近年大きく変動していることは間違いないと思いますが、親子観の変動はより緩やかでしょうから、同性婚の法改正と併せてこの禁止規定も変更されるかは不透明です。
養子縁組は、本来は親子関係を築くのが目的ですので、同性カップルが夫婦同等の関係を築く意思で行なった縁組は無効になるリスクがあります。
特に遺産が多額の場合、養親子に財産を奪われた親族が無効を主張してくる可能性があり、実際に裁判で争われた事例も存在します。
過去の裁判例では以下のように判示して、同性カップルの縁組を有効と認めたものが存在します。
養子縁組の扶養や相続等に係る法的効果や、同居して生活するとか、精神的に支え合うとかなどといった社会的な効果の中核的な部分を享受しようとして養子縁組をする場合については、取りも直さず、養子縁組の法的効果や社会的な効果を享受しようとしているといえるのであるから (中略)
同性愛関係を継続したいという動機・目的が併存しているからといって、縁組意思を否定するのは相当ではない
養子縁組をすれば親子になれますので、当然に民間企業や行政機関において家族としてのサービスを受けることが可能になります。
パートナーシップ制度においても、そもそもこの制度が「夫婦間に提供される各種サービスを同性カップルも受けやすくする」という目的のものですので、民間ないし行政上のサービスを受けやすくなります。
例えば、住宅のペアローンを受けたり、公営住宅での共同入居が可能になること等です。
パートナーシップ制度により利用可能なサービスについては、以下の記事で詳しく解説しているので、よければご覧ください。
性的嗜好という繊細な個人情報について、なるべく秘密を守った上で法的対策を講じておきたいと考える方も少なくないと思います。
この点、養子縁組は、名前も戸籍も変わるので、完全にオープンな方向きと言えるかと思います。
パートナーシップ制度についても、登録証を各サービスの窓口に提示することになるので、抵抗感を感じる方もいらっしゃるでしょう。
他方で、遺言書であれば秘密を守った上で相続対策が可能です。
さらに当事務所では、同様に秘密を守れる法的対策として、医療同意委任契約、死後事務委任契約も遺言書とセットで備えておくことをお勧めしています。
この法律文書3点セットにより、プライバシーを守りながら充実した法的対策が可能になります。
この法律文書3点セットは以下がメインページになりますので、ご覧いただければ幸いです。
養子縁組は、遺産相続や苗字の変更、扶養の認定という面で結婚類似の強い効力を生じさせることが可能です。
実際に一昔前にはよく利用されていました。
しかし、養子と養親が離縁後も結婚できないリスク等を考えると、特に若い同性カップルの方に養子縁組という手法はあまりお勧めできません。
昨今の同性婚訴訟の情勢からすれば、そう遠くない将来に同性婚が認められるか、そうでなくても同性婚類似の国家的制度が創設されることが現実味を帯びてきているためです。
他方で、遺言書は常に有意義な選択肢と言えます。
遺言書は同性婚が認められるか否かに関わらず、パートナーに遺産分割不要の財産承継を可能にさせるためには必須だからです。
また、各制度は単独ではなく組み合わせて用意しておくと更に効果的といえます。
そのため当事務所では、養子縁組ではなく、秘密保持を重視される方には遺言書+医療同意委任契約+死後事務委任契約の3点セットを、比較的オープンな方には遺言書+パートナーシップ制度をお勧めしています。
昭和57年 東京都文京区 生まれ
平成16年 中央大学 法学部法律学科 卒業
平成22年 司法書士試験 合格
平成23年 簡易裁判所の訴訟代理権試験 合格
一般企業の法務部、大手の司法書士法人等を経て、現職。