相続・遺言に関する手続の総合案内(合同会社つなぐ(FP)×司法書士法人黒川事務所×行政書士黒川事務所の運営サイト)
「長年連れ添ったパートナーに財産を残したい」
ゲイやレズビアンなどの LGBTの方が、ご自身に万一があったときに備えて同性パートナーへの遺産承継を考えるときは、遺言書が有効な法的対策となります。
なぜなら、パートナーシップ制度に登録(宣誓)しても、相続対策にはならないからです。
これは、異性間の結婚と同じような共同生活をパートナーと長年送り、同性事実婚と呼べる状態であったとしても同様です。
同性パートナーのために遺言書を作成する際、ポイントとなる事項がいくつかあります。
今回は、特に重要なポイント6つを詳しく解説していきたいと思います。
やや専門的な内容が含まれますが、どれもとても重要なことですので、もしご自身で遺言書の作成を検討されている方はぜひ参考にされてください。
【スキップ】
1-1.共同遺言は避ける
1-2.公正証書か法務局保管にする
2-1.遺贈は3種類ある
2-2.一部包括遺贈は避ける
2-3.一部包括遺贈に近づける方法
2-4.借金も遺贈の種類で変わる
2-5.相続人無しなら全部包括遺贈
3-1.遺留分は相続人の強い権利
3-2.親の遺留分に注意
3-3.遺留分は急ぎの支払いが必要
3-4.遺留分対策の第一は流動資産
3-5.遺留分対策の第二は順位付け
4-1.祭祀承継者が遺骨も承継
4-2.祭祀承継者に祭祀義務はない
5-1.遺言執行者で遺贈が円滑に
5-2.遺言執行者は復任も可能
5-3.遺言執行者は遺贈先で分ける
6-1.遺言書で書く内容は2種類
6-2.付言事項でトラブル回避
7.まとめ
遺言書に書く内容の解説に入る前に、同性カップルの方向けに遺言書の方式について解説しておきたいと思います。
一言で言えば、「①お一人につき一つの遺言書を作成して、②役所で審査・保管される方式を選択する」ことをお勧めします。
具体的には、①共同遺言は避けて、②公正証書遺言を利用するか、自筆証書遺言を利用する場合でも法務局に保管しておこう、ということになります。
それぞれ下記で詳しく解説していきます。
遺言書の種類は大きく分けて公正証書遺言と自筆証書遺言があります。
どこの法律系ネット記事も公正証書遺言を推奨していますが、ミドル世代の同性カップルの方が遺言書を作るなら、自筆証書遺言も有効な選択肢と当事務所は考えています。
公正証書遺言は公証人のチェックを受け、公証役場で保管されるため、やはり確実性は高いです。
他方で自筆証書遺言も、令和2年に法務局保管制度が施行されたことにより、法務局職員のチェックを受けた上で法務局で保管してもらうことが可能になったため、選択肢として十分検討に値するようになりました。
公正証書遺言と自筆証書遺言については下記の記事で徹底的に比較検討をしているので、よければご覧ください。
遺言書で財産を贈与することを遺贈と言いますが、遺贈にも法律で複数の種類が用意されています。
遺言書は、どの種類の遺贈を選択するのかを意識しながら作成することは必須といえます。
なぜなら、遺贈の種類によって、その効力に大変重要な違いが出てくるからです。
下記では、遺贈の種類について、その意義や特徴から、選択のポイントまで詳しく解説していきます。
一部包括遺贈の場合は遺産分割協議が必要になるため、避けるべきです。
遺産分割とは、相続又は遺贈された持分割合などを参考にしつつ、具体的に誰がどの財産を取得するのかを決めることです。
遺言書の内容 | 全遺産の2分の1を遺贈する(一部包括遺贈) |
---|---|
遺産分割協議の例 | 唯一の相続人である甲野太郎は、遺産のうちの不動産(査定額1000万程)を取得する 一部包括遺贈を受けた乙野次郎は、遺産のうちの預貯金(残高700万程)と株式(評価額300万程)を取得する |
そしてこの遺産分割の協議は、相続人と、一部包括遺贈を受けた人との全員で行い、合意に達する必要があります。
つまり、ご自身の親族とパートナーとは、全ての遺産を取得できないという面で利益が対立する中で、話し合いをしなければならなくなってしまいます。
上記のように一部包括遺贈は避けるべきですが、財産形成の途上にあるミドル世代の遺言の場合は、概括的な定め方の方がご意向に沿う場合も少なくないと思います。
例えば、「配偶者と兄弟姉妹の法定相続」に近付ける形で「遺産の4分の3はパートナーに、4分の1は兄弟に残したい」といったご希望を伺うことがよくあります。
その場合は次善の策として、パートナーに全部包括遺贈などをしつつ、遺言書に下記のような定めを設けて、パートナーへの遺贈を「負担付遺贈」としたり、後で解説する「付言事項」を活用することを検討してみてもよいでしょう。
遺言書の記載例 | |
---|---|
負担付遺贈 | パートナーは、前条の全部包括遺贈の負担として、遺言者の兄に対し、遺言者の全預貯金の合計額の4分の1相当額の金員を、遺言者の死亡から1年以内に贈与するものとする。 ただし、パートナーに遺贈した財産の価額が遺言者の親の遺留分侵害額請求によって減少したときは、その減少の割合にかかわらずパートナーの負担を全部免責する。 |
付言事項 | パートナーには、遺言者の兄に対し、遺言者の全預貯金の4分の1相当額に近い金額の金員を贈与することを検討してもらいたい。 とはいえ、かかる贈与を行うか否か、及び贈与を行う場合の具体的金額は、遺言者の晩年の遺志を汲み取りつつ、パートナーの裁量のみで決めてもらってかまわない。 |
当事務所では、ミドル世代の遺言をお勧めしているため、遺言の種類について、親などの法定相続人がいる前提でこれまで解説してきました。
しかし、法定相続人が一人もいない場合には少し話が変わってきます。
既にご両親や祖父母がご逝去されており、かつ、ご自身が一人っ子でご兄弟もいないというような場合です。
このような場合には、一部包括遺贈を避けるだけでなく、特定遺贈も避けて、全部包括遺贈にしておいた方が無難です。
というのも、特定遺贈や一部包括遺贈の場合には、死後に裁判所に対し「相続財産清算人」の選任申立てが必要になる可能性があります。
この手続の詳細は割愛しますが、この手続の下では、遺言書どおりにパートナーへの遺贈がなされるのか不確実となったり、何十万円という費用が必要になるなど、大きなデメリットを伴います。
遺言書を作成する際は、遺留分への配慮がとても重要です。
なぜなら、遺留分をめぐって相続人と遺贈を受ける人との間でトラブルに発展することが少なくないからです。
この問題は、遺言書で幾つか対策を講じることで、リスクを減らすことができます。
下記では、遺留分とは何なのかということから、その対策まで、詳しく解説していきます。
遺留分とは、分かりやすく言えば、「法定相続人に最低限確保される、遺産の一部請求権」のことです。
「最低限」というように、この請求権は遺言書でも奪うことができません。
例えば、遺言書で「パートナーに全財産を遺贈する」と書いておいても、一部の法定相続人はパートナーに遺留分の請求をすることで、遺産を一部もらい受けることができます。
遺留分を請求できる法定相続人のことを「遺留分権利者」といいますが、具体的に誰かというと、概ね下記のとおりです(法律上の配偶者はいない前提です)。
ここでのポイントは、兄弟姉妹は遺留分権利者ではないという点です。
ケース | 遺留分権利者 |
---|---|
亡くなった方に子供がいるとき | 子供 |
亡くなった方に子供がいないとき | 親 (又は祖父母) |
遺留分の金額も民法で決められており、配偶者がいない前提で言えば、下記のとおりです。
ケース | 遺留分の金額 |
---|---|
遺留分権利者が子供 | 遺産全体の評価額の2分の1 |
遺留分権利者が親 | 遺産全体の評価額の3分の1 |
※子供ないし親が複数名いる(生存している)場合 | 上記の金額を人数で分ける |
遺留分の請求がされたら、原則として即時一括で支払う必要があります。
例えば、上記の例で、唯一の遺産である住宅を遺贈した場合は、その時価査定額の3分の1相当額をすぐに支払う必要があります。
その場合に、預金などがないと、支払いが遅れて遅延損害金の支払義務も生じたり、住宅売却の検討を迫られるなど、苦慮することになってしまいます。
一般的な遺留分への対策は、遺贈する財産を少な目にすることです。
例えば遺留分権利者が親なら、パートナーには遺産全体の3分の2相当額の財産の遺贈にとどめるわけです。
しかし、LGBTの方の遺言の場合は、前記のように割合での指定は一部包括遺贈となるため避けるべきですし、財産を特定して遺贈額を調整するのも、財産形成の途上であるミドル世代の方の遺言の場合はなかなか難しいと思います。
そうなると次の対策としては、現金化しやすい預貯金や株などの流動資産を多めにパートナーに遺贈しておくということになります。そのような遺言書と併せて、保険金受取人をパートナーに指定する生命保険への加入も検討に値します。
もしご自身が亡くなられたときは、遺骨や位牌という形になっても、そばに居ることでパートナーの悲しみを少しでも和らげてあげたい。
そう思われるのでしたら、祭祀承継者としてパートナーを指定しておきましょう。
下記では、祭祀承継者の意義や必要性、デメリットの有無まで、詳しく解説していきます。
祭祀承継者とは、「祭祀財産」を承継する人のことです。
祭祀財産の所有権は、他の一般的な財産とは別の相続ルールが適用され、法定相続人が相続せず、祭祀承継者が取得することになります。
祭祀財産とは、具体的には下記になります。
祭祀財産の種別 | 具体例 |
---|---|
系譜 | 家系図 |
祭具 | 仏壇 仏具 |
墳墓 | お墓 |
遺言内容を実現するには、不動産の名義変更や預金の引出しなど、死後に多くの手続が必要になります。
パートナーに不動産等を遺贈しても、実際の名義変更等の手続で、法定相続人となる親族の協力が必要になるのが原則です。
しかしそれでは、遺贈の実現に支障が生じるリスクもあるため、遺言書でパートナーを遺言執行者にも指定しておくことをお勧めします。
この記事では、遺言執行者の意義や指定のテクニックについて詳しく解説していきます。
遺言執行者は、複数名を指定したり、遺言執行者ごとにその権限を分けることも可能です。
そのため、遺贈の送り先がパートナー以外にもいるときは、下記のように遺贈先ごとに遺言執行者を指定しておくと、「自分のことは自分でやる」という構造にできるので、都合がよいことも多いでしょう。
遺贈の例 | 遺言執行者の指定の例 |
---|---|
実家関連の不動産は兄に、 それ以外の全遺産はパートナーに遺贈したい | 実家関連の不動産遺贈の遺言執行者として兄を指定し、 それ以外の遺贈の遺言執行者をパートナーに指定する |
遺言書に書く内容には、付言事項(ふげんじこう)というものがあります。
この事項には法的効力を伴わないので、書かなくても大きな問題はありません。
しかし付言事項がないと、ご自身の親族とパートナーとの間で親交がない場合などには、親族側は遺贈の背景となる遺言者の気持ちや経緯などがよく分かりません。
その結果、パートナーへの恨みを買い、無用なトラブルに発展する可能性が高まります。
この記事では、付言事項とはどういうものかということから、そのメリットまで、詳しく解説していきます。
付言事項には法的拘束力はありませんが、死者の気持ちが伝わることで、揉めごとが発生するリスクを減らすことができます。
例えば、葬儀についての希望を書いておけば、ご親族とパートナーが葬儀の主導権争いをしなくて済む可能性が高まります。
また、遺贈をした背景事情を記載しておけば、パートナーが遺留分請求を受けるリスクも減らすことができます。
遺留分は、前記のとおり遺留分権利者に最低限確保された権利ですが、権利を行使して実際にお金の請求をするかどうかは遺留分権利者の自由です。
そのため、遺留分が問題になりそうなときは、親族に向けて、パートナーは生前お世話になった人なので争わないでほしい旨などの気持ちを少しでも書いておいた方がよいでしょう。
昭和57年 東京都文京区 生まれ
平成16年 中央大学 法学部法律学科 卒業
平成22年 司法書士試験 合格
平成23年 簡易裁判所の訴訟代理権試験 合格
一般企業の法務部、大手の司法書士法人等を経て、現職。